こころみ学園だより

1950年代に、特殊学級(現在の支援学級)の中学生たちによって開墾された葡萄畑が、私たちのワインづくりの原点です。この足利市田島町の急斜面で、当時、知恵遅れと呼ばれていた少年たちは、汗まみれになりながら夏草を刈り、寒風の吹きすさぶなかでお礼肥えの穴を掘ってきました。
平均斜度38度のこの葡萄畑は、陽あたりや水はけがよく、葡萄にとっては最良の条件です。しかし、耕運機やトラクターが使えず、人間の足で登り降りするしかありません。剪定後の枝拾いや、自然の堆肥を運びあげる仕事、一房一房の摘房作業、そしてかごをかかえての収穫・・・全ての作業が、自然のなかでの労働を通して、自らの力をつけ、その力をもとに自然の恵みを引き出していくことでもありました。そんな毎日の暮らしのなかで知恵遅れと呼ばれ続けてきた少年たちは、知らず知らずのうちに寡黙な農夫に、陽に灼けた葡萄畑の守護人に、醸造場の働き手になっていきました。1980年代のはじめに、知的な障害を持つ人たちの自立を目指してつくられたこころみ学園のワイン醸造場も、1980年代の終わりにこころみ学園の園生たちが葡萄を植えたカリフォルニア・ソノマの葡萄畑も、まさに自然のなかでの労働と暮らしから、自然の恵みであるワインを享受していくことでした。
現在、この葡萄畑から一望できるこころみ学園には約140名の利用者がいます。そのうち88歳を筆頭に、ここに働き暮らす人たちのうち、約2分の1が高齢の知的障害者です。

こころみ学園では、園生みんなが何らかのかたちでワインづくりに携わっています。
こころみ学園が栽培した葡萄はココ・ファーム・ワイナリーが購入します。 ココ・ファーム・ワイナリーは仕込みやビン詰めなど醸造場での作業を、こころみ学園に業務委託します。 葡萄畑や醸造場で働く仲間のために、洗濯物を干したり、お弁当の用意をしたり、縁の下の力持ちでワインづくりを支える園生もいます。 こんなワインづくりの日々のなかで、草刈りに大がまを振るっていたA君も、山のような洗濯物を干してきた I さんもだいぶ歳をとりました。彼らは今、ゆっくりとではありますが若い農夫と一緒に、あらたな明日の夢をつないでいます。

私たちは、伝統や名声を誇る外国のシャトーのように、潤沢な資金を持つことができません。大手のワインメーカーのように、大量生産することもできません。 しかし、葡萄を育てワインを醸す仕事に、自分の名前さえ書けない人たちが取り組んできたことを、どんなに辛くても、一年中空の下でがんばってきた農夫たちがいることを、ひそかな誇りに思っています。
ここにご紹介するワインは、葡萄づくりに、ワインづくりにがんばってきた仲間たちが、のんびりと葡萄畑で自分にあった仕事-草取りや、石拾いや、カラス追い-をしながら、自然に囲まれて、安心して年をとっていけますよう、そんな願いも込められています。

歳をとることは明日があること、明日があることが続くと、おじいさんやおばあさんになること。 「あした(明日)、がんばん(がんばる)」・・・ここの農夫たちに、思う存分のお力添えを賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

こころみ学園 職員一同
ココ・ファーム・ワイナリー スタッフ一同

こころみ学園とココ・ファーム・ワイナリーの年表