こころみ学園だより

1950年代に、特殊学級(現在の支援学級)の中学生たちによって開墾された葡萄畑が、私たちのワインづくりの原点です。この足利市田島町の急斜面で、当時、知恵遅れと呼ばれていた少年たちは、汗まみれになりながら夏草を刈り、寒風の吹きすさぶなかでお礼肥えの穴を掘ってきました。

平均斜度38度のこの葡萄畑は、陽あたりや水はけがよく、葡萄にとっては最良の条件です。しかし、耕運機やトラクターが使えず、人間の足で登り降りするしかありません。剪定後の枝拾いや、堆肥を運びあげる仕事、一房一房の摘房作業、そして収穫した葡萄のコンテナ運び・・・全ての作業が、自然のなかでの労働を通して、自らの力をつけ、その力をもとに自然の恵みを引き出していくことでもありました。そんな毎日の暮らしのなかで知恵遅れと呼ばれ続けてきた少年たちは、長い時間をかけて、知らず知らずのうちに寡黙な農夫に、陽に灼けた葡萄畑の守護人に、醸造場の働き手になっていきました。

現在、この葡萄畑から一望できるこころみ学園を利用する人たちは100名以上。親しみを込めて園生と呼ばれるこころみ学園に暮らす人たちは、ほとんどの人が最重度の知的障害を持ち、約半数の人たちが高齢者です。

最重度の障害を持ちながら、また高齢のため車椅子で過ごしながら、こころみ学園ではみんなが何らかのかたちでワインづくりに携わっています。
こころみ学園の園生たちが栽培した葡萄や原木椎茸はココ・ファーム・ワイナリーが購入しています。 ココ・ファーム・ワイナリーは仕込みやビン詰めなど醸造場での作業を、こころみ学園の園生に業務委託しています。ワインだけでなく、葡萄の枝やワイン樽から木工品を造ったり、近隣の山林の下草刈りや除伐・間伐にたずさわる園生もいます。また葡萄畑や醸造場や山林で働く仲間のために、洗濯物を干したり、掃除をしたり、縁の下の力持ちでみんなを支える園生もいます。こんな日々のなかで、ゆっくりとではありますが、園生も職員もスタッフも、みんな一緒にあらたな明日の夢をつないでいます。

私たちは、伝統や名声を誇る外国のシャトーのように、潤沢な資金を持つことができません。大手のワインメーカーのように、大量生産することもできません。 しかし、葡萄を育てワインを醸す仕事に、自分の名前さえ書けない人たちが取り組んできたことを、どんなに辛くても、一年中空の下でがんばってきた農夫たちがいることを、ひそかな誇りに思っています。
ココ・ファーム・ワイナリーのワインには、葡萄づくりに、ワインづくりにがんばってきた仲間たちが、のんびりと葡萄畑で自分にあった仕事-草取りや、石拾いや、カラス追い-をしながら、自然に囲まれて、安心して年をとっていけますよう、そんな願いも込められています。
歳をとることは明日があること、明日があることが続くと、おじいさんやおばあさんになること。 「あした(明日)、がんばん(がんばる)」・・・ここの農夫たちに、思う存分のお力添えを賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

こころみ学園 職員一同
ココ・ファーム・ワイナリー スタッフ一同